ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛

全8回の連載です。第7回:日本に届いたもの


ここまで、ワシントンとテヘランと北京の話をしてきました。ここからは、それが日本にどう届いたかです。


① 備蓄のない一本足 ― ナフサショック

戦後体制の崩壊というと、遠い国の話に聞こえます。しかしこの期間、それはスーパーの食品ラップの値札に現れました。

日本の弱点は、構造的なものです。

  • 日本はプラスチックの原料の約95%をナフサに依存(アメリカはシェールガス由来のエタン、欧州はLPGが主力)
  • そのナフサの約74%が中東産
  • 国内で精製する分も中東産の原油に頼っており、原油輸入の約90%がホルムズ海峡経由

つまり二重の依存です。 そして決定的なのが、これです。

原油には約250日分の国家備蓄がある。しかしナフサには、国家備蓄がありません。

1973年のオイルショックを教訓につくられた備蓄制度は、「原油」を守る設計でした。しかし2026年の危機は、原油の一段下流にある「石油化学のコメ」を直撃した。

50年前の設計の盲点が、50年越しに露呈したのです。

打撃は数字に出ています。 製油所の稼働率は4月に67.8%まで低下。国内12基のエチレンプラントのうち6基が減産に入りました。消費者に届いたのは、食品ラップや包装材の値上げ、ペットボトルの品薄、断熱材などの住宅資材、そして電気代です。

対応も進んでいます。 アメリカ、オーストラリア、インド、アルジェリアからの代替調達が加速し、5月にはアメリカからの輸入が前年の約4倍になりました。代替調達率は約6割です。

ただし、喜望峰を回るルートは輸送日数が2週間増え、燃料コストは1.5倍。量が確保できても、価格の高止まりは続きます。

政府はこの状況を「供給網の目詰まり」と表現しています。業界団体も5月に「川上の原料は維持できているが、個別の製品では偏りが残る」と認めました。

統計上の在庫と、現場の欠品が同時に存在する。 これが危機の実相です。

② 大統領の一言が、家計に届くまで

第6回で扱った5月27日の発言には、もっと重要な使い道があります。

アメリカの国内政治が、どの経路を通って日本や豪州の家計に届くのか。それを1本の線で示せる実例なのです。

 
大統領が「選挙を理由に戦争方針は変えない」と明言(5月27日)
   ↓
市場が「戦争は長引く」と織り込む
   → 5月28日、アジア株が下落。香港市場は8週間ぶりの安値
   ↓
原油高とホルムズ閉鎖の継続
   ↓
豪州4月の家計支出が、予想を超えて減少(2023年10月以来の低水準)
   → 現地の報道は「米イラン戦争による原油高が家計を直撃」と明記
   ↓
日本ではナフサショック
   → 食品ラップ、包装材、ペットボトル、断熱材、電気代

抽象的な「地政学リスク」ではありません。

大統領の一言 → 香港株の8週ぶり安値 → 豪州の統計に出た家計支出の減少 → 日本のスーパーの値札。

この経路が実際に測れるのが、2026年という年です。

③ 7月24日、日経平均1,811円安

同じことが、7月の最終週にもう一度起きました。

7月24日(金)、日経平均は前日比1,811円安(2.73%安)の6万4,611円で引けました。 取引時間中の下げ幅は一時2,200円を超え、TOPIXも心理的な節目の4,000ポイントを一時割り込んでいます。

材料は大きく2つです。

1つは、上がりすぎたAI・半導体株の反動。 前日のアメリカ市場で主要3指数が揃って下げ、その流れを引き継ぎました。

もう1つが、この連載の主題に直結します。

23日、ホルムズ海峡の代わりのルートである紅海側で、サウジアラビアのタンカーが攻撃されたと伝わり、原油が大幅に上昇しました。 アメリカの長期金利は年初来の高水準まで上昇。市場の解説はこう述べています。

止まらない円安と原油高、金利上昇でインフレ圧力が高まっている

円安、原油高、金利上昇。

ホルムズが閉じ、その迂回路まで攻撃され、原油が上がり、円が安く、金利が上がる。先ほどの経路が、7月末には日経平均の終値そのものに現れたのです。

米ドル円は163円台。日経平均は75日移動平均線まで下げており、市場では6万円から6万2千円という水準まで下押しする可能性も指摘されています。

④ 暗号資産税制が、2028年からである理由

最後に、税理士として一つ、個人的に納得したことを書かせてください。

まず制度の話です。

令和8年度の税制改正で、暗号資産の申告分離課税(20.315%)が導入されました。改正所得税法は今年3月末に公布されています。ただし適用開始の時期が独特です。

改正法は「金融商品取引法等の改正法が施行された日の属する年の、翌年1月1日以後」の譲渡から適用すると定めています。金商法の改正が2027年中に施行されれば、適用は2028年1月1日から。施行日を定める政令は、まだ出ていません。

期間 適用されるルール
2026年・2027年の利益 現行どおり総合課税(最高約55%)
2028年1月以降の利益 申告分離課税 20.315%(予定)

繰越控除も「2028年1月以後に確定した損失」に限られます。2027年以前の損失は対象外です。

ここから私の推測です。

正直なところ、私はこの「2028年から」という設定に違和感を持っていました。制度としては2027年からでも組めるはずなのに、なぜ1年、間延びさせるのか。

しかし今回、アメリカの立法過程を追って腑に落ちました。

日本の税制は「暗号資産が金融商品として法的に位置づけられること」を、分離課税の前提条件にしています。分類が先、課税は後。

そしてアメリカも、まったく同じ構造です。 CLARITY法案で「デジタルコモディティ」としての分類と管轄を確定させ、その後に市場のルールが動く。分類が先、ルールは後。

ところがその分類の法律が、アメリカでは選挙政治の後ろに回されつつある。第6回で書いた通りです。

日本の当局が「2028年」という余裕を置いたのは、結果として賢明だった ― 私はそう見ています。

ただし念のため申し添えます。これは私の推測です。 金融庁も財務省も「アメリカの立法日程を待つ」とは一言も述べていません。

そして、顧問先の皆様にとって重要なのは、そこではありません。

2026年と2027年の暗号資産の利益は、最高約55%の総合課税のままです。 そして2027年以前に損失を確定させても、2028年以降の分離課税の利益とは相殺できません。

この2年間を、どう扱うか。保有を続けるのか、この期間に利益を確定するのか、損失をどう処理するのか。答えは各社・各人の状況によって変わります。

制度の開始が2028年であることには理由がある。理由が分かれば、この2年間の使い方も設計できます。


次回(最終回):私の見立てと、これからの備え

仮説A〜Dの更新、次に確認すること、そして顧問先の皆様への18の備え。


【注記】

ナフサの構造 日本はエチレン原料の約95%をナフサに依存。ナフサ輸入の約74%が中東産、原油輸入の約90%がホルムズ海峡経由。原油の国家備蓄は約250日分、ナフサの国家備蓄はゼロ。製油所稼働率は4月11日週で67.8%(ロイターが石油連盟データとして報道)。国内12基のエチレンプラントのうち6基が減産(4月初旬)。4月の非中東産ナフサ到着量は約90万kl(平時の倍)、5月の米国産輸入は前年比約4倍(月間約135万kl規模)。5月時点の代替調達率は約6割で、政府は4か月分の在庫と合わせ「年を越えて供給を続けられる」としている。経産省は「重要物資安定供給タスクフォース」を設置し、小児用カテーテルや医療用滅菌ガスなど人命に関わる物資の優先供給を調整。日本化学工業協会は5月15日に「川上の原料は維持できているが、個別製品では偏りが残る」と表明(日経報道)。 ※構成比の数値は業界資料ベースで、経産省・石油連盟の一次統計での再確認が望ましい範囲です。

豪州の家計支出 4月の家計支出は前月比マイナス1.1%(予想マイナス0.5%)で、2023年10月以来の低水準。前年比でも増加幅が縮小。現地報道は米イラン戦争による原油高と豪中銀の連続利上げが家計を直撃したと分析している。

7月24日の日本市場 日経平均は前日比1,811円45銭安(2.73%安)の6万4,611円15銭。取引時間中の下げ幅は一時2,200円超。TOPIXは42.57ポイント安の4,011.31で、一時4,000ポイントを割り込んだ。売買代金は概算8兆4,378億円。前日23日は307円高の6万6,422円60銭で反発していた。前日のアメリカ市場はダウが506ドル93セント安(0.97%安)、ナスダックが2.15%安、S&P500が1.21%安。日経平均は75日移動平均線(6万4,325円)まで到達。 ※為替と株価の水準は市況情報ベースです。8月第1週にはFOMC、4〜6月期の米GDP速報値、6月のPCEデフレーター、大型テック企業の決算が集中します。

暗号資産の税制 令和8年度税制改正により申告分離課税20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)を導入。改正所得税法は2026年3月31日に公布。適用は「金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後」の譲渡から。金商法改正が2027年中に施行されれば2028年1月1日から適用。施行日を定める政令は本稿執筆時点で未制定。対象は「特定暗号資産」の現物取引・デリバティブ取引・ETF。繰越控除は3年間で、2028年1月以後に確定した損失が対象。金融庁は暗号資産ETFの解禁も分離課税移行と同時期に揃える方針で調整しているとされる。 ※制度の詳細は施行日政令・国税庁通達等により変わる可能性があります。実際の適用にあたっては最新の情報をご確認ください。


本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。税制の適用については、施行日を定める政令や国税庁の通達等により取扱いが変わる可能性があります。具体的な投資判断・税務判断は、個別の状況を踏まえて専門家にご相談ください。

ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)