ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛

全5回の特別号です。第1回:8月10日、また何も起きませんでした


この特別号について

定点観測の合併号(全8回)で、私は何度も「8月10日」という日付を書きました。アメリカのCLARITY法案が、上院で成立するかどうかの最終期限とされた日です。

その日が過ぎました。答え合わせをします。

そしてこの特別号では、アメリカだけを見ていては見えないものを扱います。日本、EU、ロシア。4つの法域を並べたとき、まったく違う風景が見えてきました。

全5回でお届けします。


① 結論から書きます

8月8日、アメリカ上院は採決を行わないまま休会に入りました。

ただし完全な空振りではありません。スーン上院院内総務は休会に入る直前、「審議入り動議」への討論終結動議を提出しました。これにより、9月15日に手続き採決が設定されています。上院が休会から戻る翌日です。

念のため申し添えると、9月15日の採決は法案の成立を問うものではありません。「この法案の審議に入るかどうか」を決める動議です。そこを通っても、その先に討論、修正、最終採決、そして下院版・上院農業委員会版との調整が控えています。

CoinDeskはこう評しています。「夏休み前の採決機会を逃したことで、9月成立は分の悪い賭けになった。ただしこの最初の動きすらなければ、2026年中の成立は事実上絶望と宣告されていただろう」

② 6月10日の予測と、答え合わせ

合併号の第6回で、私はこう書きました。

選挙の後の、より有利な議会で通せばいい。そういう判断が働いているのではないか

この読みは、結果として当たりました。

6月から8月にかけて、上院の限られた審議時間を奪ったのは選挙制度の法案でした。7月15日に国務省の予算案とともに、7月22日には国防予算の法案とともに上院へ送られ、大統領は超党派で合意していた住宅法案への署名を拒否してまで、その通過を迫っています。

一方でCLARITY法案は、休会直前に手続き動議が1本提出されただけでした。

ただし**「私の読みが当たった」で終わらせるつもりはありません。** 9月15日という窓が残されたこと自体は、私の想定より前向きな展開です。完全に選挙後送りにするなら、この動議を出す必要はありませんでした。

③ 何が止めているのか ― 3つの争点

上院銀行委員会のメンバーが難所として挙げたのは、報酬(利回り)、倫理、DeFi、マネーロンダリング対策の4点です。中でも実務的に重いのは次の3つです。

1つ目、倫理条項。 大統領一族の暗号資産事業への関与をどう扱うかという問題です。ティリス上院議員は「まだ到達していない」と認めており、これが解決しない限り、60票に必要な民主党票は存在しないとされています。

2つ目、604条。 暗号資産をめぐる刑事捜査への影響を、全米地区検事協会が懸念しています。

3つ目、ステーブルコインの利回り。 ここは日本の読者にも他人事ではありません。取引所がステーブルコインの保有者に利息に相当する報酬を払えるかどうかという論点で、銀行業界は「預金から資金が流出する」として強く反対しています。アメリカ銀行協会は、この抜け穴を塞ぐようCLARITY法案に求めています。

④ 上院に残された時間

数字で見ると、状況は厳しいものです。

市場が織り込む2026年中の成立確率は、Polymarketで約33%、Galaxy Researchで約30%。

そして9月の上院は、CLARITY法案だけを審議するわけではありません。8月8日に可決された継続決議は政府資金を12月初旬まで手当てしましたが、現行の資金は9月30日で切れます。 9月の審議時間は、予算交渉と奪い合いになります。

10月から上院は州活動期間に入り、選挙戦が本番を迎えます。9月が最後の窓というのが、多くの観測筋の見方です。

⑤ しかし ― 議会が止まっている間に、当局は動いています

ここが見落とされがちな点です。

立法が止まっても、規制当局は行政手続きで前進しています。

  • **通貨監督庁(OCC)**が、GENIUS法を実施する規則案を公表。認可された支払型ステーブルコイン発行体に、1対1以上の準備保有を義務づけるものです
  • 財務省が、ステーブルコイン発行体にマネーロンダリング対策の義務を課す規則を提案。月次の準備証明と、CEO・CFOによる証明を求めています
  • **証券取引委員会(SEC)**は「Regulation Crypto」と称する規則案を、2026年後半に正式な規則制定手続きに入れる予定です

合併号の第6回で「行政・立法・人事・物語という4つのレバー」を書きました。選挙の分野では行政のレバーが裁判所に止められましたが、金融の分野では、行政のレバーが立法の停滞を埋めているという構図です。


次回:4つの法域を並べてみる

日本、EU、ロシア。それぞれがまったく違う設計を選んでいました。そして「アメリカが周回遅れ」という私の第一印象は、半分だけ正しかったのです。


【注記】

CLARITY法案の8月 8月3日、スーン上院院内総務が休会前の本会議採決実施を明言。その時点で法案は本会議カレンダーに載っておらず、討論終結動議も未提出だった。8月8日、上院は最終採決を行わないまま休会。ただしスーン院内総務は休会直前に審議入り動議への討論終結動議を提出し、9月15日(上院復帰の翌日)の手続き採決を設定した。9月15日の採決は最終採決ではなく、法案の審議に入るかどうかを問う動議である。

争点 上院銀行委員会メンバーが挙げた難所は、報酬(利回り)、倫理、DeFi、マネーロンダリング対策。ティリス上院議員は倫理条項について「まだ到達していない」と発言。604条については全米地区検事協会が刑事捜査への影響に懸念を表明。ステーブルコインの利回りについては、アメリカ銀行協会などが、デジタル資産サービス提供者が既存のステーブルコイン利息禁止を回避できる抜け穴を塞ぐようCLARITY法案の活用を求めている。注目される民主党議員はジリブランド、アルソブルックス、ギャレゴ。60票には共和党53名全員の賛成に加え、民主党から7名前後が必要。

成立確率と日程 Polymarketで約33%、Galaxy Researchで約30%(いずれも2026年中の成立)。上院は8月8日に継続決議を90対6で可決し、政府資金を12月初旬まで手当て。現行の資金は9月30日で終了予定。下院は8月31日に復帰して予算案を審議する。10月から上院は州活動期間に入る。9月に進展がなければ、成立は選挙後へ持ち越され、新議会での時間はさらに短くなる。

当局の動き 2026年初頭、通貨監督庁がGENIUS法を実施する規則案(NPRM)を公表し、認可された支払型ステーブルコイン発行体に1対1以上の準備保有を義務づけた。同時期、財務省がステーブルコイン発行体にAML/CFT義務を課す規則を提案し、月次の準備証明とCEO・CFOによる証明を求めた。SECの「Regulation Crypto」規則案は、同庁のアジェンダによれば2026年後半に正式な規則制定手続きに入る見込み。

GENIUS法 2025年6月17日に上院を68対30の超党派で通過、7月17日に下院を通過し、7月18日に署名・成立。支払型ステーブルコインに関する米国初の包括的な連邦枠組みで、1対1の準備を義務づけ、発行を認可事業者に限定する。施行日は18か月以内または最終規則の120日後のいずれか早い方。


本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。税制の適用については、施行日を定める政令や国税庁の通達等により取扱いが変わる可能性があります。具体的な投資判断・税務判断は、個別の状況を踏まえて専門家にご相談ください。

ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)