ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛

全8回の連載です。第5回:守る側から、取る側へ


ここから、私の仮説です。事実に基づいた推論ですが、確定した未来ではありません。


① 一つの言い方にたどり着いた

ずっと引っかかっていたことがあります。

アメリカは1月に66の国際機関から抜けました。 WHOからも脱退し、国連PKOの資金も止めています。「引きこもり」に見えます。

ところが同じアメリカが、ホルムズ海峡に1万5千人を展開しています。13夜連続で爆撃もしています。ぜんぜん引きこもっていません。

この矛盾を、6月号で一つの言い方にまとめました。

アメリカは、世界秩序を「守る側(お金を払う側)」から「所有する側(お金を取る側)」に変わろうとしている。

国連の分担金や、NATOという無料の傘。こうした「会費を払う立場」を降りる。そして平和評議会の常任席(10億ドルの拠出が条件)、関税、駐留と通商を結びつけた取引という「料金を取る立場」に回る。

引きこもっているのではありません。無料で提供していたものを、有料に変えているのです。

② 1か月半で、3つの政策になった

6月10日、これは仮説でした。7月末、これは3つの政策になっています。

1つ目、新しいNATO像。 7月のNATO首脳会議で、アメリカは「欧州が自分の安全保障をもっと担うべきだ」という構想を主張しました。会費徴収モデルの同盟版です。

2つ目、輸入の99.4%を覆う関税。 前回書いた通り、期限のない制度として発効しました。通行料の常設化です。

3つ目、ホルムズ海峡。 大統領は「最終的にアメリカが海峡を支配する」と述べ、港の封鎖を再開しました。海峡を通る対価をルール化する動きに見えます。

1か月半で、仮説が政策文書と関税表になりました。この速さは、私の想定を超えています。

③ 世界は、いくつかのかたまりに分かれる

6月号では、この構造を次のように整理しました。

「複数のブロックが同時にできる。ただしブロック同士は、敵対でも統合でもなく、取引で管理される」

7月の出来事は、この見方を裏づけました。

  • 西半球 ― ペルー、コロンビアで保守・親米の政権が成立
  • 湾岸 ― 米軍基地を置きながら、イラン攻撃への領土使用は拒否。アメリカ主導の枠組みに加盟しながら、イランとの対話も続ける
  • 欧州 ― 英仏独が6月にアメリカ抜きでウクライナ大統領と共同声明を出し、一方でスペイン・仏・伊はイラン攻撃への基地使用を制限
  • ブロック同士の取引 ― G7では「イラン暫定合意への支持」と「ウクライナ支援の強化」が事実上交換されました

そして日本です。

高市政権の戦略分野への投資集中と「戦略的不可欠性」という路線。そして平和評議会へのオブザーバー参加。

世界がかたまりに分かれるほど、「代わりのきかない存在になる」という戦略の価値は上がります。

④ ロシアは、アメリカとの距離を公言した

6月8日、ロシアのラブロフ外相は「戦争の帰結を決めるのは交渉ではなく兵士だ」と述べ、ウクライナとの交渉を拒否しました。

同じ会見で、こうも述べています。

アメリカは、昨年の夏にアンカレッジで到達した了解に関心を示していない

米ロの接近が止まっていることを、ロシア自身が公言したわけです。

5月号で私は「米ロ蜜月」という見方を「アメリカの単独行動に各国が適応している」と修正しました。その修正の方向は、間違っていなかったようです。


次回:アメリカ国内で起きている4つのこと

なぜCLARITY法案は止まっているのか。11月の中間選挙に向けて、4つのレバーが同時に引かれています。


【注記】

国際機関からの脱退と軍の展開 1月8日に計66機関からの脱退・資金停止を指示、1月22日にWHO脱退が発効。一方で5月3日にホルムズ海峡へ約1万5千名を展開(Project Freedom)。7月には13夜連続の攻撃と港湾封鎖の再実施。

平和評議会の常任席 常任メンバーになるには10億ドルの拠出が条件とされ、それ以外は3年任期。トランプ大統領が初代議長を無期限で務める。

NATO 3.0 7月7〜8日のトルコ・アンカラで開かれたNATO首脳会議で米政権が主張した構想。欧州が自らの安全保障ニーズをより多く担う同盟像。7月2日には大統領がSNSでNATOへの不満を投稿している。

G7エヴィアン・サミット 6月15〜17日、フランス・エヴィアン=レ=バン。トランプ大統領はイラン戦争を終結させる暫定合意への各国首脳の支持を得て帰国し、首脳側はウクライナへの安全保障支援強化へ引き込もうと動いた。招待国はブラジル、インド、ケニア、韓国、シリア。高市首相にとって初のG7、マクロン大統領にとって最後のG7だった。

欧州の自律的な動き 6月7日、英仏独3か国首脳がゼレンスキー大統領と共同声明を発表し、即時停戦と現在の前線の凍結を交渉の出発点とする条件を提示。アメリカ抜きの枠組み。

ロシア ラブロフ外相の発言は6月8日。ゼレンスキー大統領の公開書簡(6月4日)を「無礼」と批判し、プーチン大統領も首脳会談を拒否。検証可能な進展は4月11日のイースター32時間停戦、5月9〜11日の戦勝記念日停戦、6月5日の捕虜185名ずつの交換。予測市場の年内停戦確率は45%前後。


本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。具体的な投資判断は専門家にご相談ください。

ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)