ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛

全5回の特別号です。第5回(最終回):日本の2028年と、これからの備え


前回、こう書きました。

ステーブルコインは兌換紙幣ではない。しかし「兌換紙幣を作れる器」である。 そして、その器を持っているのはいまアメリカだけである、と。

最終回は、その話が日本の皆様の確定申告にどう繋がるかを書きます。


① いつ「兌換」になるのか ― 観測できる分岐点

まず、前回の続きです。

「兌換になる日」は、推測ではなく、はっきり観測できます。

GENIUS法で認められる準備資産の範囲が、現金・米国債の外へ広がったとき。

金やビットコインが、支払型ステーブルコインの適格な準備資産として認められた日。それが第3層が動いた日です。

今日時点では、認められていません。

私はこれを、今後の定点観測のチェック項目に加えます。「金かビットコインが、ステーブルコインの適格準備資産に加わるか」 ― この一行を覚えておいてください。

② 日本の2028年が、腑に落ちた理由

ここから、税理士としての話です。

令和8年度の税制改正で、暗号資産の**申告分離課税(20.315%)**が導入されました。改正所得税法は2026年3月末に公布されています。

ただし適用開始が独特です。改正法は「金融商品取引法等の改正法が施行された日の属する年の、翌年1月1日以後」の譲渡から適用すると定めています。施行日を定める政令は、本稿執筆時点でまだ出ていません。

期間 適用されるルール
2026年・2027年の利益 現行どおり総合課税(最高約55%)
2028年1月以降の利益 申告分離課税 20.315%(予定)

繰越控除も「2028年1月以後に確定した損失」に限られます。2027年以前の損失は対象外です。

私はこの「2028年から」という設定に、ずっと違和感を持っていました。 制度としては2027年からでも組めるはずなのに、なぜ1年、間延びさせるのか。

しかし今回、腑に落ちました。

日本の税制は「暗号資産が金融商品として法的に位置づけられること」を、分離課税の前提条件にしています。分類が先、課税は後。

そしてアメリカも、まったく同じ構造です。 CLARITY法案で「デジタルコモディティ」としての分類と管轄を確定させ、その後に市場のルールが動く。分類が先、ルールは後。

そして前回わかったのは、兌換の話も同じ順序だということです。器が先、中身が後。

分類 → ルール → 課税。線路 → 通貨 → 裏付け。どちらも「器が先、中身が後」です。

念のため申し添えます。日本の当局が「アメリカの立法日程を待った」と考えているわけではありません。 金融庁も財務省もそんなことは述べておらず、適用時期が金商法の施行日に連動するのは、あくまで国内法上の建て付けです。これは私の推測にすぎません。

ただ、同じ思考の順序が日米で共通しているという構造の相似は、事実として指摘できます。

③ 顧問先の皆様へ ― 2026年と2027年をどう使うか

制度の話を、実務の高さまで下ろします。

1. 2年間、税率は最高約55%のままです

2026年と2027年に確定した暗号資産の利益は、これまで通りの総合課税です。2028年を待てば20.315%になるという前提で保有を続けるのか。それとも別の判断をするのか。税率差は最大で35ポイント近くあります。

2. 2027年以前の損失は、繰り越せません

繰越控除の対象は2028年1月以後に確定した損失です。この2年間に損失を確定させても、2028年以降の分離課税の利益とは相殺できません。 損失処理のタイミングは、ここを踏まえて設計する必要があります。

3. 施行日の政令は、まだ出ていません

2028年という前提そのものが、政令次第で動く可能性があります。金商法改正の施行日が決まった時点で、逆算の計画を組み直してください。 その時期が来たら、私からもご案内します。

4. ステーブルコインでの受け取りが、実務に入ってきます

日本では2026年6月1日に改正資金決済法が施行され、外国発行のステーブルコインを国内で電子決済手段として扱う道も明確になりました。取引先から売上代金をステーブルコインで受け取る、という場面は、そう遠くありません。 会計処理と税務の扱いは、事前に整理しておくべき論点です。

5. 判断は、各社・各人で変わります

含み益の規模、資金繰り、他の所得との関係、法人か個人か。答えは一つではありません。 具体的な設計は、個別にご相談ください。

④ この特別号で見えたことを、5行にまとめます

  1. 8月10日、アメリカ上院は採決しないまま休会した。 次は9月15日の手続き採決
  2. 法律ではアメリカが最後尾。しかし通貨では独走している。 各国が制度を整えるほど、その上を流れるのはドルだった
  3. アメリカは遅れたのではなく、2025年1月に別の道を選んだ。 国家発行を禁じ、民間のオンチェーン・ドルに賭けた
  4. ステーブルコインは兌換紙幣ではない。しかし兌換紙幣を作れる器である。 そして器を持っているのはアメリカだけ
  5. 日本の2028年には理由がある。 分類が先、課税は後。理由がわかれば、この2年間の使い方も設計できる

結びにかえて

私がいつも申し上げていることがあります。税理士の仕事は「作業」ではなく「考える」ことだと。

3年前、私は「不換紙幣から兌換紙幣へ」という仮説を立てました。そして今回、「ステーブルコインがその兌換紙幣ではないか」と考え、調べ、違っていたことを確認しました。

でも、それでよかったと思っています。

間違いを潰したことで、仮説はむしろ鋭くなりました。 ステーブルコインは兌換紙幣ではない。しかし兌換紙幣を作れる器である。そして、その器を持っているのはいまアメリカだけである ― この形になって、初めて「では何を見ていればいいのか」が明確になりました。

GENIUS法の適格準備資産に、金かビットコインが加わる日。 それが分岐点です。

そしてもう一つ。私が3年追ってきたマクロの話は、遠い国の話ではありませんでした。皆様の確定申告の、適用年度の話でした。 2026年と2027年をどう使うかという、極めて具体的な話です。

考えること、備えること、そして正直であること。間違えたら、間違えたと書くこと。 どんな未来が来ても、これだけは無駄になりません。

5回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。

通常の定点観測は、9月号から再開します。9月15日にアメリカ上院で何が起きたか、その答え合わせから始めます。

ご質問・ご相談は、いつでもお寄せください。


【注記】

暗号資産の税制 令和8年度税制改正により申告分離課税20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)を導入。改正所得税法は2026年3月31日に公布。適用は「金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後」の譲渡から。金商法改正が2027年中に施行されれば2028年1月1日から適用。施行日を定める政令は本稿執筆時点で未制定。対象は「特定暗号資産」の現物取引・デリバティブ取引・ETF。繰越控除は3年間で、2028年1月以後に確定した損失が対象。金融庁は暗号資産ETFの解禁も分離課税移行と同時期に揃える方針で調整しているとされる。 制度の詳細は施行日政令・国税庁通達等により変わる可能性があります。実際の適用にあたっては、必ず最新の情報をご確認ください。

日本の資金決済法改正 2026年6月1日施行(2025年6月6日成立、6月13日公布、令和7年法律第66号)。主な内容は、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設、特定信託受益権の裏付け資産の運用範囲拡大(発行額の50%を上限に、満期・残存期間3か月以内の日米国債や中途解約可能な定期預金での運用を認める方向)、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者に対する資産の国内保有命令の規定追加、資金移動業における新たな保全制度、クロスボーダー収納代行への資金移動業登録の要求など。 併せて2026年5月19日、金融庁は「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」を公布(6月1日施行)。外国の信託銀行等が発行するステーブルコインを国内で電子決済手段として扱えるかが不明確だった点を解消するもので、パブリックコメントは2026年2月3日〜3月5日に実施され16件の意見が寄せられた。

CLARITY法案の次の日程 2026年8月8日、米上院は最終採決を行わないまま休会。スーン院内総務が休会直前に審議入り動議への討論終結動議を提出し、9月15日(上院復帰の翌日)の手続き採決が設定された。これは最終採決ではなく、法案の審議に入るかどうかを問う動議である。


本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。税制の適用については、施行日を定める政令や国税庁の通達等により取扱いが変わる可能性があります。具体的な投資判断・税務判断は、個別の状況を踏まえて専門家にご相談ください。

ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)