ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛

全8回の連載です。第4回:世界がかたまりに分かれていく


前回、湾岸諸国の「両建て」を紹介しました。今回は、世界全体がどんなかたまりに分かれつつあるかを、選挙と関税と統計から見ます。


① ペルー、49,641票差

6月10日の時点で、私が「まだ分からない」と書いた選挙が2つありました。

1つはペルーです。 決選投票の開票が95%進んだ時点で、左派の候補が僅差でリードしていました。私はこう書きました。

歴史的に右派に有利な在外票がまだ開いていないので、逆転の可能性がある

結果は、約1,800万票のうち49,641票差で、保守のフジモリ氏が勝ちました。

国内票では左派が僅かに上回っていました。しかし首都圏と在外票で差がついたのです。7月3日に当選が確定し、7月28日に就任しました。4度目の挑戦での当選で、10年で9人目の大統領です。

② コロンビア、そして西半球の色

もう1つがコロンビアです。

6月21日の決選投票で、親トランプの右派候補が25万票弱の差で勝ちました。この候補は、トランプ大統領から公式に支持を受けていました。 就任は8月7日です。

つまり6月10日に立てた「外れる条件」の4つ目 ―「コロンビアとペルーでいずれも左派が勝つ」― は、成立しないどころか正反対の結果になりました。

西半球で保守・親米の政権が並ぶ。 これは、もう予測ではなく事実です。

③ 輸入の99.4%に、新しい関税

これは6月号を書いた時点で存在しなかった、最も大きな出来事です。

7月23日、アメリカは60の国と地域からの輸入品に10〜12.5%の関税をかけると発表しました。 対象はアメリカの輸入の99.4%。日本も含まれます。理由は「強制労働でつくられた製品の輸入禁止を実行していないこと」です。

この措置の意味は、経緯を追うと見えてきます。

 
2月20日  最高裁が、緊急権限による一括関税を違憲と判断
   ↓ その数時間後
         別の法律を使って、150日の期限付きで全世界10%関税を発動
   ↓
7月24日  議会が延長せず、期限切れ
   ↓ 同時刻
         別の条文を根拠にした新関税が発効(こちらは期限なし)

緊急権限 → 期限付き権限 → 調査に基づく恒久的権限。

司法と議会に止められるたびに、法的な根拠を乗り換えて回り込んでいます。 そして今回のものには、期限がありません。

④ 同盟にも、はっきり亀裂が出た

米議会の調査機関の報告書から、6月時点で私が把握していなかった事実が確認できました。

  • 多くの同盟国政府が、事前の相談なしにイラン攻撃が始まったことをアメリカに抗議した
  • スペイン、フランス、イタリアは、イラン攻撃への自国の空域・基地の使用を制限したと報じられている
  • トランプ大統領は4月のインタビューで、こうした反応を理由の一つに挙げて「NATOからの離脱を真剣に検討している」と発言した

7月2日には、大統領がSNSにこう投稿しています。

アメリカは他のどの国よりはるかに多くの資金をNATOに使って彼らを守っているのに、何の見返りもない。ばかげている

⑤ 貿易は縮んでいない。伸びながら組み替わっている

ここは統計が明確です。

世界貿易機関が、2026年3月から「どの国のかたまりの中で貿易が行われているか」を公式統計として追い始めました。2025年、貿易は地政学的に近い相手とのやり取りへシフトしています。

ところが同じ年に、世界の貿易額そのものは6%以上伸びました。 世界のGDPの伸びを上回っています。

貿易は縮んでいるのではなく、伸びながら組み替わっている。

そして世界が完全に2つに分裂すれば、世界のGDPが最大7%失われるという試算があります。誰にとっても損なので、誰も分裂しきらない。

だからブロックの間には「取引」が残ります。5月の米中首脳会談で、農産物と航空機の取引がまとまったのがその例です。

⑥ 「外れる条件」4つの判定

6月10日に立てた4つの条件を、7月末時点で判定します。

条件 結果
①CLARITY法案が否決される 起きていない(否決ではなく停滞)
②NATO撤退が実行されない その兆候なし
③ステーブルコイン決済が伸び悩む 判定できず(データが手に入っていません)
④中南米で左派が勝つ 正反対の結果

4つのうち、成立したものはありません。


次回:守る側から、取る側へ

なぜアメリカは、国際機関から抜けながら中東に軍を展開できるのか。一つの言い方でこれを説明します。


【注記】

ペルー大統領選 第1回投票は4月12〜13日、36候補が乱立し、フジモリ氏が17%で首位、サンチェス氏が約12%で2位。投票率73.81%。決選投票は6月7日で、最終集計はフジモリ氏50.135%、サンチェス氏49.865%、約1,800万票のうち49,641票差。在外投票は63か国で約41万票が第1回に投じられており、歴史的に右派優位。7月3日に選挙管理当局が勝利を宣言、サンチェス氏は7月6日に敗北を受け入れた。2021年の決選は約45,000票差での敗北だった。

コロンビア大統領選 5月31日の第1回投票でデ・ラ・エスプリエヤ氏43.74%、セペダ氏40.90%。投票率57.88%は同国史上最高。6月4日に当局が結果を認証し、国際監視団はプロセスを「秩序的かつ透明」と評価。6月21日の決選は12,955,911票対12,706,523票(開票99.96%)で約25万票差。セペダ氏は暫定結果を認めつつ、3万3千投票所の結果に異議を申し立てると表明。就任は8月7日。

301条関税 7月23日発表、7月24日午前0時1分発効。対象60か国・地域、米国輸入の99.4%をカバー。中国・オーストラリア・エジプト等に12.5%、EU・インドネシア・メキシコ等に10%。連邦官報の正式告示は431ページ。輸送中の貨物や他の貿易協定対象品目に例外規定あり、鉄鋼・アルミの232条関税との二重賦課はなく、USMCA適合品はほぼ無関税を維持。中国は既存の個別高関税があるため今回のリストには不掲載。批判側からは「EUと中国の税率差の小ささが、強制労働調査を関税の口実として使っていることを物語る」との指摘。

関税の法的経緯 2026年2月20日に最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)による包括関税を違憲と判断。その数時間後に通商法122条による全世界一律10%関税を発動(150日の時限付き)。議会が延長せず7月24日午前0時1分に失効し、同時刻に通商法301条ベースの新関税が発効。

同盟の亀裂 米議会調査局の報告書による。ただし2024年度国防授権法1250A条は「上院の助言と同意なしに大統領はNATOから脱退できない」と規定している。ルッテNATO事務総長は6月24日にホワイトハウスを訪問。7月7〜8日のNATOアンカラ・サミットで、米政権は欧州が自らの安全保障をより多く担う「NATO 3.0」構想を主張した。

貿易のブロック化 WTOは2026年3月の「Global Trade Outlook and Statistics」で、地政学ブロック内/間の貿易を公式統計として追跡開始。WTO・IMFデータに基づく分析では、2025年に貿易の「地政学的距離」が約1.2%短縮(2017〜24年の年率0.9%短縮から加速)。同年の世界の財貿易は名目6.5%成長(世界GDP成長5.4%を上回る)。WTO事務局は、世界が2ブロックに完全分裂した場合の損失を実質GDPの最大7%と試算。

米中北京サミット 5月14〜15日、2017年以来9年ぶりの米大統領訪中。中国が2026〜28年に年間最低170億ドルの米農産物を購入、ボーイング機200機の初期購入を承認、米国産牛肉・鶏肉の販売再開などで合意。ただし中国側は台湾を「レッドライン」として関係の中心に据えており、米国側発表はこれに言及していない。人民元によるドルへの挑戦は議題になっていない。


本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。具体的な投資判断は専門家にご相談ください。

ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)