ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛
全8回の連載です。第3回:8つの秩序は、いまどこにあるか
5月号から使っているフレームです。戦後80年続いた世界の仕組みを8つに分けて、それぞれの現在地を追っています。今回は、6月から7月にかけて動きの大きかった5つを取り上げます。
① エネルギー ― 海峡は、開かないまま
2月末に閉じたホルムズ海峡は、7月末になっても開いていません。
そして日本では、これが「ナフサショック」として実体経済を直撃しました。食品ラップの値段にまで届いた話なので、第7回でまとめて扱います。
② 安全保障 ― 終わったはずの戦争が、13夜続いた
アメリカは5月1日、議会へ「戦闘行為は終わった」と通告しました。ところが6月9日、対イラン攻撃を再開します。議会の新たな承認はありません。
6月中旬、フランスで開かれたG7サミットで、トランプ大統領はイラン戦争を終わらせる暫定合意への支持を各国から取り付けて帰国しました。
しかし7月7日、その暫定合意が崩れます。
- 7月13日 ― 米軍が3夜連続で攻撃。大統領は「最終的にアメリカがホルムズ海峡を支配する」と述べ、イランの港を再び封鎖すると発表。原油は1日で9.6%上昇
- 7月20日 ― 週末に米兵3名が死亡。中東への戦闘機増派
- 7月22日 ― 12夜連続の攻撃。大統領は「イランがホルムズで船を攻撃するたびに、橋か発電所を爆撃する」と宣言。同じ日、戦死した米兵4名の遺体を迎える式典に参列
- 7月23日 ― 下院が戦争の終結を求める決議を可決。上院は否決
- 7月24日 ― 13夜連続の後、この夜は攻撃の発表なし
6月号で私は「終結宣言をした後で戦争を再開した」と書きました。7月はその先です。
法律上は終わらせたまま、議会の片方が明確に反対しても、爆撃が13夜続く。
③ 国際機関 ― 国連の隣に、2つの代替組織
アメリカは1月、66の国際機関から脱退・資金停止を指示し、WHOからも正式に脱退しました。国連PKOは要員を4分の1減らします。世界食糧計画などの国連機関は、軒並み大幅な予算削減に直面しています。
その一方で、アメリカ主導の「平和評議会」が1月に発足し、27か国が加盟しました。トランプ大統領は「平和評議会が国連を監視する」と述べています。中国も独自の枠組みを持っています。
国連が資金面で空洞化し、その隣にアメリカ製と中国製の代替組織が並び立ち始めた。
これが1945年に作られた仕組みの、いまの実態です。
④ 中東 ― 崩壊ではなく、空洞化した存続
ここで5月号の記述を訂正します。
私は「イランの神権政治が崩壊しつつある」と書きました。正確ではありません。**「形だけ残って中身が空洞化した状態で存続している」**が正しい表現です。
2月末に最高指導者が死亡した後、3月に息子が後継に選ばれました。体制は世襲で生き残ったのです。
ただし新しい最高指導者は、就任以来一度も公の場に姿を見せていません。声明はテレビのアナウンサーが代読しています。実権が誰にあるのかも分かりません。
そして空洞化した体制は、次に何をするか読みにくいぶん、崩壊よりも厄介です。
⑤ 湾岸 ― アメリカ依存をやめたのではない。一本足をやめた
ここが最も興味深い動きです。
イランは湾岸6か国すべてを攻撃しました。4月にはサウジアラビアの石油施設が直撃を受けています。湾岸諸国は「1か国への攻撃は全加盟国への攻撃」とイランに警告しました。
ところが、同じ国々がこう動いています。
- 自国の領土をイラン攻撃に使わせない保証をアメリカに求めた
- オマーンは戦争中もテヘランとの対話を続けた
- カタールは攻撃を受けた後に、むしろイランとの外交チャネルを再開した
専門家の見方はこうです。
湾岸諸国がイランとの対話に動いたのは、アメリカの後ろ盾だけでは自国の安全を守れないと判断したからだ。今回の戦争は、その判断をむしろ強めた
アメリカ依存をやめたのではありません。アメリカ一本足をやめたのです。
米軍基地を置きながら、イラン攻撃への領土使用は拒否する。アメリカ主導の枠組みに加盟しながら、イランとの対話も続ける。
この「両建て」は、これから世界のあちこちで見ることになります。 次回、その全体像を見ていきます。
次回:世界がかたまりに分かれていく
中南米の2つの選挙、輸入の99.4%にかかった関税、そして同盟の亀裂。
【注記】
イラン情勢 2025年12月28日から反政府デモが全31州へ拡大。1月の弾圧で数千人が死亡と報じられ、全国的なネット遮断は1月8日から5月26日まで続いた。2月28日の米イスラエル合同作戦で最高指導者が死亡、政府高官40名超が死亡。3月9日に専門家会議がモジタバ・ハメネイ氏(56)を後継に選出。初声明は3月12日、国営テレビのアナウンサーによる代読。人道状況(3月中旬時点)は死者がイラン1,300人超、レバノン687人、イスラエル12人、米兵7人。避難民はイラン国内で最大320万人、レバノンで約80万人。
7月の戦闘 7月7日以降、米軍人約100名が何らかの負傷(国防総省発表)。7月13日の攻撃でブレント原油が9.59%上昇し83.30ドル(6年超で最大の1日上昇率、戦争ピークは110ドル超)。7月22日にCENTCOMが12夜連続の攻撃完了を発表(海上能力、ミサイル貯蔵施設、沿岸監視サイト、防空資産など数十の目標)。7月23日の戦争権限決議は下院で可決、上院で否決。
国際機関 1月8日、計66機関(非国連系35+国連系31)からの脱退・資金停止を指示。1月22日にWHO脱退が発効(米国は資金の約18%を担う最大拠出国)。国連PKOは要員の4分の1削減へ、米国の滞納は28億ドル超。ミュンヘン安全保障報告書2026によれば、世界食糧計画は約34%、国際移住機関は約30%、UNICEFとOCHAは最大20%の予算削減に直面。
平和評議会(Board of Peace) 国連安保理決議2803号(2025年11月17日、賛成13・ロシア中国棄権)を経て、2026年1月22日にダボスで発足。加盟27か国。常任メンバーは10億ドルの拠出が条件。ロシアは招待を受け凍結資産から10億ドルの拠出用意を表明したが、正式加盟は確認されていない。日本は報道ベースで21のオブザーバー国の一つに分類されている(外務省発表での確認が望ましい)。中国は独自のグローバル・ガバナンス・イニシアチブを保持。
湾岸諸国 4月9日、イランの攻撃でサウジのマニファ・クライス生産施設と基幹パイプラインが被弾。4月28日のGCCジェッダ首脳会議で「1か国への攻撃は全加盟国への攻撃」と警告。引用した分析は中東グローバル問題評議会によるもの。対話に最も積極的なのはオマーンとカタールで、UAE・クウェート・バーレーンは距離を保ち、サウジはホルムズ再開を最優先とする実利路線。湾岸5か国は平和評議会に加盟している。
本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。具体的な投資判断は専門家にご相談ください。
ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)
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