ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛
全8回の連載です。第1回:ドルは死なない。形を変える
この連載について
6月号は、6月10日に書き上げていました。しかし公開できないまま7月末になってしまいました。
普通なら古い原稿は捨てるところですが、今回はそうしませんでした。6月10日に「こう見える」と書いたことが、7月末の現実とどう合って、どう外れたのか。 それをそのままお見せできる機会は、めったにないからです。
6月号と7月号の合併号として、全8回でお届けします。通常の8月号も兼ねます。数字の根拠は各回の末尾にまとめました。
① 制度は進み、価格は落ちた
6月上旬、通貨の世界には奇妙な矛盾がありました。
アメリカでは、暗号資産を法的に位置づけるCLARITY法案が上院の委員会を通過しました。国家としてビットコインを保有する仕組みを定める法案も提出されました。
ところが同じ時期、暗号資産の時価総額はピークのおよそ半分まで落ち込み、ビットコインは6万ドル台まで急落しています。
制度は進み、価格は落ちた。これをどう読むか。
② おカネの移り変わりを、3つの層に分ける
私は通貨の移行を、3つの層に分けて考えました。
1つ目は、おカネが流れる線路です。 銀行の送金網から、ブロックチェーンへ。これは進んでいます。
2つ目は、その線路を走るおカネそのものです。 これは後で詳しく書きます。
3つ目は、おカネの信用の裏付けです。 何の裏付けもない紙幣から、金やビットコインといった現物資産に裏打ちされた通貨へ。私が3年追ってきたテーマですが、ここが最も遅れています。
この3層で見れば、6月の矛盾は矛盾ではありません。 1層目と2層目は進み、3層目は止まっていた。ビットコインの暴落は3層目への期待が冷めただけで、線路を敷く作業とは別の話です。
③ ステーブルコインは「暗号資産」ではなく「ドル」
2つ目の層が、最も誤解されやすいところです。
ステーブルコインとは何か。ドル建てのトークンです。
つまりステーブルコインが普及することは、「ドルが暗号資産に取って代わられる」ことではありません。「銀行の帳簿の上にあったドルが、ブロックチェーンの上に移る」ことです。 しかも、その裏付けとして米国債が買われる仕組みになっています。
ドルは死ぬのではなく、新しい線路に乗り換えて生き延びようとしている。
「ドルから暗号資産へ」ではなく、「裏付けのないドルから、新しい線路の上を走る、裏付けのあるドルへ」。これが6月10日の結論でした。
④ 訂正:ARMA法案は「100万ビットコインを買う法律」ではありませんでした
ここで、5月号の記述を訂正します。
5月号で私は、報道をもとに「アメリカが5年で最大100万ビットコインを取得する法案」と紹介しました。間違いです。
条文を確認したところ、この法案は購入を一切義務づけていません。定めているのは「180日かけて、財政を悪化させずに取得する方法を調べること」だけで、そのための借金や増税は禁止されています。100万ビットコインの取得を定めているのは、別の法案でした。
この法案が定めているのは、器と規律です。
- 財務省の中に準備金を法律として設置する
- 取得したビットコインは20年間売れない(例外は国の借金を減らす目的だけ)
- 四半期ごとに保有量を公開し、監査を受ける
- 国は個人の暗号資産の自己保管権を侵害してはならない
さらに、財務長官は政府によるビットコイン購入を否定する発言をしています。
器と規律のルールは進む。しかし器に何をどれだけ入れるかは、まだ決まっていない。 これが正確な現状です。
次回:7月4日、何も起きなかった
建国250周年の日に、ホワイトハウスが署名を目指していた法案はどうなったのか。
【注記】
CLARITY法案の委員会通過 上院銀行委員会のマークアップは5月14日、15対9で可決。共和党13名全員に、民主党のギャレゴ議員(アリゾナ)とアルソブルックス議員(メリーランド)が加わったが、両名とも「支持は条件付き」と表明。銀行のデジタル資産活動に関する条項の削除を求めた修正案は11対13で否決、政府高官の暗号事業保有を禁じる倫理修正案も否決された。
暗号資産の価格 時価総額は2025年10月のピーク約4.2兆ドルから、6月4日に2.18兆ドル(約48%減)。ビットコインは5月下旬の7.6〜7.8万ドルから6月3〜4日に一時61,500ドル。現物ETFから13営業日連続で約34〜35億ドルの流出(2024年1月の上場以来、最長・最大)。Strategy社が5月26〜31日に約4年ぶりの売却。長期保有者による分配は約367万BTC規模。 ※価格・流出額は報道ベースで相互に整合を確認していますが、一次データでの再確認が望ましい範囲です。
ARMA法案 5月21日提出、H.R.8957。ベギッチ議員(共和・アラスカ)とゴールデン議員(民主・メイン)を含む超党派17名の共同提案。下院金融サービス委員会に付託。6月5日公開の条文で、第9条が「180日間の予算中立的取得方法の調査」のみを指示し、借入・新税・赤字支出を明文で禁止していることを確認。「年間20万BTC×5年=100万BTC」を定めているのは、上院銀行委員会に係属中のBITCOIN Act(S.954)。米国の現保有は約328,372BTC。
本稿の内容は特定の投資・資産運用を推奨するものではありません。具体的な投資判断は専門家にご相談ください。
ドクタービジネスソリューションズ株式会社/DoCTOR税務会計事務所 代表 田端 秀寛(たばた・ひでのり)
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