さて、税理士へのきっかけシリーズも3回目となったが、今回は田端も本当に切なくなった話である。
とある外装工事(サイディング)の事業者の税務調査を実施した時の話である。
調査対象者は、当時65歳の男性で見た目は老紳士という言葉がしっくり当てはまる感じであった。
当該調査のきっかけは、非常に稀なケースであり、その納税者のご子息の調査を実施し、
貸借面の実態を把握するために家族名義の預金まで調査したところ、
その納税者が所得に見合わない預金を有していることから調査着手することとなった。
調査に対する対応は、朴訥というか誠実で、既に申告所得に見合わない預金を把握されている
せいか、嘘偽り無く、非常に気持ちの良い対応で、こちらまで素直に
「ご協力ありがとうございました」と頭を下げてしまうほどであった。
さて、調査は進みいよいよ調査額の提示の日となった。
この納税者は、税理士と顧問契約を結んでおらず、
ご夫婦二人でお見えになられたのである。。。
非常に重苦しい空気の中、田端は調査内容の説明を始めた。
田端 :「売上が・・・」
:「資産の増減が・・・」
:「外注費の支払事実が・・・」
淡々と説明は終了し、続いて納税額である。
田端 :「国税が加算税・延滞税を含めて・・・」
:「地方税はおよそ・・・」
:「Aさん(以下Aさん)、総額でこのぐらいになりますが
ご理解頂けましたでしょうか?」
Aさん:「はい、よく理解できました。」
「考慮して頂ける範囲は最大限考慮して頂いてありがたく思ってます。しかし・・・」
Aさんの言葉が途切れた。
Aさん:「なぁ、母さん、この歳から裸になるのは怖いなぁ・・・」
「自分がいい加減なことをしてきたのは充分わかったんやけど、裸になるのは怖いなぁ・・・」
Aさんの納税額は、ほぼ預貯金額と同額であり、Aさんは納税をすると、無一文となるのである。
Aさんの目からは自然と涙が流れ、その場の時間は止まったように凍りついた。。。
調査額の提示の際に、配偶者である女性が泣く場面はよくある。
また、「ウソ泣き」にもよく出くわすのであるが、男性の涙は珍しい。
しかも、今回は本当に辛く悲しい涙である。
どれだけ時間が経ったかも感じ取れない時間が過ぎて行った。
田端は喉元まで、「この調査はなかったことにしましょう」
という言葉が出掛かるぐらい、張り裂けそうな気持ちを我慢しながら
理解を促す言葉を少しずつ投げかけるのが精一杯であった。
・・・・・・
結局、最終提示額通り修正申告書を徴し、Aさんとがっちり握手でその
調査は終わったが、、、、
こうならないようなアドバイスを事前に、
また、今後の不安には打開策をアドバイスできる税理士がいれば
この税務調査も、今後の不安もかなり変わったであろうという痛切な思いが胸の内に残った。。。
税理士は確かに税の専門家であり税金の計算が守備範囲である。
しかし、クライアントが相談相手として期待をしている限り、その使命は
重いものであると同時に、少しでも適切なアドバイスができる税理士に
なりたいと、強く心に思った事案であった。。。
税理士へのきっかけ編は以上です。